中華料理店でパスタを頼んでも、そんな注文受け取ってくれませんし、もし作ってくれたとしても本格的なイタリア料理店のそれには遠く及ばないでしょう。同様に塾というのは勉強を教える専門家ではありますが、子どものしつけという部分に関しては期待できません。まれに「お子様のしつけはお任せください」という方針の塾もありますが、当塾は子どものしつけを売りにはしていません。しかしながら目の前の生徒をしつけなければならない場面というのはどうしても生まれてきます。中学生は子どもだからか、あるいは子どもであることに甘えているからか、遅刻、言葉づかい、姿勢、備品の使い方など、不十分な点が多々あります。そのような場面を見てしまえば注意するのは当然です。それが人生を長く生きている大人の役目だからです。そして子どもが子どもの振る舞いをしてしまうのは、往々にして「そもそも誰からも教わっていない」ということが原因であることがあります。
先日、塾の欠席を電話連絡してきた生徒がいました。仮にA君としましょう。以下はA君との電話の内容です。
(電話が鳴って取る)
私「はい、進学塾青凜館です。」
A君「〇年の✕✕です。今日は塾を休みます。」
私「分かりました。次は△曜日です。」
A君「分かりました。」
私「では、失礼します。」
A君「・・・」
A君の対応にはまずいところが2点あります。大人の皆さんは分かりますね。まず1点目は、電話る切る前に、こちらが「失礼します」と言っているのに、それに対して無言で電話を切ろうとしている点です。対面で一方が「さようなら」あるいは「バイバイ」と言っているのに、他方が無視をすることがありますか。電話でも同じです。一方が挨拶をすれば、他方も挨拶をするのが礼儀・マナーというものです。それも生徒にとっては目上の人間が「失礼します」と丁寧に別れの挨拶をしているのに、子どもの方がそれをスルーするのはいけません。無言で電話を切ろうとしましたので、私がもう一度「失礼します」と言うと、A君は気づいたかのように「失礼します」と言うのでした。
2点目はA君の初めのセリフです。「〇年の✕✕です。今日は塾を休みます。」というところです。先の最後の挨拶もそうですが、これは生徒が電話をしてくるときに大変多いものです。「塾を休みます」だけでなく、「〇〇です。✕✕先生いますか。」、「〇〇です。今日授業ありますか。」なども同じです。大人であれば常識ですが、名乗った後に、間髪入れずそのまま用件を言うのはダメです。A君のセリフも「。」などの間が全くなく、実際は「〇年の✕✕です今日は塾を休みます。」という、ただ単に一方的に事実だけを伝えるセリフでした。相手に電話する場合には、初めに名乗った後、少し間を開けて用件を伝えます。いや、たいていは名乗った後に、相手から「こんにちは」とか「お世話になっています」とか「はい、どうしましたか」とか「どのような用件ですか」などの言葉があります。相手から「こんにちは」と言われれば、「こんにちは」と返してから用件を伝えればいいのです。「お世話になっています」であれば、「こちらこそお世話になっております」と返すのです。名乗って、そのまま用件を伝えられても相手は困惑するだけです。あるいは相手が忙しければ迷惑ともなります。あるいは電話に出た相手が、その用件を伝えるべき相手ではない可能性もあります。相手の確認もせずに用件を伝えるのは、大人の常識ではありえないことです。もちろんA君にはこのような電話の仕方は相手にとって失礼だという話はしました。以後気をつけてくれるでしょう。
大事なのは、「電話のマナーなど誰も教えてくれない」ということです。保護者の方で、子どもに電話の仕方を教える方はほとんどいないでしょう。「相手につながったら、まずは自分の名前を言って、用件をきちんと伝えて、最後はさようならと言って切るんだよ」などと教えることはまずないでしょう。特に、携帯電話を持っている中学生が多いですので、わざわざ相手の家に電話をすることはめったにありません。それゆえ誰が出るかもわからない相手の家に電話をかけて、相手に名乗って用件を伝えて、取り次いでもらうという経験があまりないのでしょう。家に電話をかける場面に、もし相手に失礼な電話のマナーであっても、その相手方がわざわざ注意することはありません。赤の他人のマナーを注意するほど面倒なことはありません。注意することなく、「なんてこの子は失礼なんだ」という印象を抱くだけです。子どもであればまだいいのですが、社会に出て電話のマナーもろくに知らないようでは、信用などはされないでしょう。私もわざわざもらった電話で生徒を注意するのは楽しくありませんが、生徒が失礼な振る舞いをしているのを見過ごすことはできません。勉強にも言えることですが、生徒ができない原因の中には、「そもそも知らない」「誰からも教えられていない」というものがあります。この電話のマナーもそうでしょう。はなから知らないのですから、できないのは当然です。中1の生徒に、「なんで三平方の定理も分からないんだ」と言ったところで、「そんなの習ってないんだから当然じゃん」と言われるのは明白です。勉強だけでなく、「知らないことが多い」ということは良くない結果を生むことがあります。だからこそ、社会に出る前の10代の期間に、知識を得ることを怠ってはいけません。中学生にとっては部活も大事でしょうが、自分の時間を本を読んだり、勉強をしたりすることにも充てて、知識を高めることにも手を抜いてほしくないのです。