春期講習の英語の授業では、基本例文の英作文テストを行っています。教科書から抜粋した例文10個を日本語から英語に直すというものです。このようなテストをすると、勉強の仕方が二通りに分かれます。一つは、英文の中にある文法や品詞に注目し、「なんでここはaではなくてtheなんだろう」「なんでこの動詞にはsがついているのだろう」「なんでこの語順なんだろう」と疑問を抱きながら勉強する子。もう一つは、英文に疑問を抱かず、とにかく力業で英文を暗記しようとする子です。テストで合格してしまえばどちらも結果は変わりません。しかし、これから先どちらの成績向上が見込めるかというと、前者であるのは明確です。
それぞれのやり方の出発点は「できるだけ面倒なことは避けて、効率的にやりたい」というものです。文法に注目する子は、「ただの暗記ではなく、基礎基本を理解しておけば、覚えることが少なくなって効率がいい」と思うでしょう。暗記で乗り越えようとする子は、「基本的なことを勉強する時間はないし、そんな余裕もないので、目の前の課題を乗り切るためには全部覚えるほうが早い」と考えるでしょう。私は全部暗記で乗りきる子がだめだと言いたいわけではありません。そもそも暗記をする能力というのは受験では欠かせない要素ですし、完璧を目指して頭に叩き込むという作業を通して、短時間で暗記できるようになるのも事実だからです。また、暗記で乗り切ることは大人からみるとそれほど効率的なやり方ではありませんが、勉強を避けて、何もやろうとしない子に比べれば確実に前進しているといえるでしょう。
暗記をするにしても、基礎を理解した暗記でなければ何も意味がありません。例えば「私はコンピュータは私たちにとってとても便利なものだと思います」という日本語は、教科書では「I think computers are very useful to us.」となっています。力業で覚えた子は、次に「I think that the computer is useful to me.」という文章が出たときに、それが初めに覚えた英文と同じ構造だということを判断できません。さらに「I thought that you were studying at home.」となればどうなるでしょうか。また一からこの文章を覚えようとするでしょう。それでは受験という制限時間のある戦いで結果を出すことはできません。ですから、遠回りしてでも「文法」「単語」というところを丁寧にやって、基礎基本からたどっていけるようにするべきでしょう。高校に入っても英語学習は続くのですから、暗記メインでやっていくのは自分を苦しめることになります。「急がば回れ」とはよく言ったもので、勉強が苦手な子ほど遠回りして、今の学習内容から離れたところの学習から始めなければならないのです。
効率のいいやり方をしている子が、初めからそのようなやり方をしていたのかと言われれば決してそうではありません。誰しもが大人からみると「無駄だな」とか「ただ時間だけを消化しているだけでしょ?」というようなやり方をするものです。教科書の文章をノートに同じように写す作業や教科書の太文字に線を引く作業は典型例です。しかし本当に成績を上げようと思ったとき、今までやっていた作業には無駄が多く、勉強時間が成績に反映されていないことに気が付きます。そこでより効果の出る方法、例えばただ教科書を写すのではなく、ポイントだけ抜粋したり、教科書の太文字部分とその説明をノートに書いて、一問一答のテストをつくったりすることを実践するようになるのです。ここで大事なのは、大人が効率のいいやり方を強いるのではなく、子どもが効率を高める方向にもっていくことです。子どもたちが自分で気づけるように仕向けることなのです。そのために重要なのは、「子どもたちをきちんと勉強に向き合わせること」と「できないことに対する悔しさを持たせること」です。あとはどのようにそういう方向にもっていくかですが、そのあたりはまた別の機会に書いていきます。