青凜館の小テストはすべて自作しています。テキストに付属した小テストというものもあるのですが、あまりにも簡単であったり、大事なポイントとずれていたり、何かと使用するのに不便なため自作しています。自作と言っても、テキストの穴埋めのような単純作業では知的生産性がないため、少しひねりを利かせ、一筋縄では解けないようにしています。例えば英語の小テストでは、単語と英訳を出題するのですが、あえて「罠」を仕掛け、子どもたちが間違えるであろう方向へと誘導しています。
問題1:「彼は毎日、本を読みます。」
これを英語にすると、He reads books every day. となります。これには3つの罠があるのですがお分かりですか。一つは主語と時制の影響を受けて、readに三単現のsが付くという罠。一つは目的語の本という部分を抽象的な形、つまりbooksもしくはa bookにするという罠。一つはevery dayを2単語に分けて書くという罠です。一つひとつの罠自体は全く難しくありません(名詞を単数形にするか複数形にするか、あるいは冠詞をつけるか、数詞をつけるか、所有格の代名詞をつけるかという部分の理解には時間を要するかもしれませんが、少なくとも冠詞のないbookというものには違和感を感じなければなりません)。その簡単な罠が3つも集まると、英語が得意な子でも簡単につまずいてしまうのです。落とし穴を避け、安心して進んだ先にまた落とし穴があるといったところでしょうか。
問題2:「あなたはいくつかの辞書を持っていますか。」
英訳すると、Do you have any dictionaries? となります。これにも3つの罠があります。一つ目は、疑問文なのでsomeではなくanyを使うという罠。二つ目は、dictionaryの複数形はyをiにかえてesをつけるという罠。そして三つ目の罠は、そもそもこの文自体の意味を取り違えるという罠です。どういうことかというと、「あなたはいくつかの辞書を持っていますか。」という日本語を見た子どもの多くが、頭の中で「あなたはいくつの辞書を持っていますか。」という文へと変換してしまうのです。「か」という一語を抜かしただけで意味は全く異なります。「いくつか持っていますか」であれば、その返答は「はい持っています」「いいえ持っていません」となるので、英語もDo you have ~?で始めなければなりません。それが「いくつ持っていますか」にしてしまうと、その返答は「1つです」「たくさんです」などと数を答えることとなるので、英文もHow many books ~?で始めることになります。学校でも塾でもHow many ~?の練習を多くするために、結果として勝手に慣れたほうへと変換してしまうということになってしまうのです。
こんなテストをやっていると、私がいかにもひねくれた人間かのように思えるかもしれませんが、私に言わせれば入試問題のほうがよっぽどひねくれものです。そもそも入試というのは「合格者を出す」ためのものではなく「不合格者を出す」ためのものです。ですので「分かる人にはわかる」「できる人にはできる」「気づける人は気づく」というポイントを点在させています。そうすることで、この学校で勉強するに値するかどうかを判断するのです。また昨今、入試問題を取り巻く環境は厳しくなっています。大阪大学での問題の不備・誤りによって、本来合格していたはずの受験生が不合格となっていたという出来事は記憶に新しいのではないでしょうか。高校入試も例外でなく、入試が終わると多くの教育関係者から問題へのチェックが入るのです。その中には問題の不備を指摘してやろうと躍起になっている人もいるかもしれません。そんな人たちにけちの一つもつけられないような問題にするためには、確実に答えを一つに限定できる設問にしなければなりません。論説文で、「同じ内容を本文中から抜き出しなさい」という問題であれば、たいていの場合、同じ内容を表す個所は複数あります。それではまずいので、問題作成者は設問の中に「具体的に」「○○字で」「第〇段落から」などの制約を設けるのです。入試ではこういう文言を一つひとつチェックしていきながら、注意深く解答していくわけですから、私が出題する簡単な小テスト程度の問題は、さらりとクリアしなければならないでしょう。ということで今日も小テストづくりに頭を悩ませているのであります。