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先日、大学入試共通テストの国語・数学における記述式問題実施の延期が発表されました。これにより、大学入試共通テストはこれまで通りすべてマーク式問題での実施となります。中学生の中には「マーク=簡単、記述=難しい」と考えている子が多くいます。記号選択問題は深く考えずにあっさりと回答し、反対に記述問題には異常なほどの警戒心を持っていますが、むしろ、記号選択問題ほど警戒心を持って臨むべきではないでしょうか。記述解答と違い、記号選択は〇か✕かしかないからです。
中3生の受験でマーク式問題というと、何といっても高専の入試です。高専の入試問題はすべてマーク式で、文字を書く問題は一切ありません。数学もセンター試験同様、このように数字や符号をマークしなければなりません。
以下の問題は、今年行われた高専の社会の入試問題です。簡単に記号選択できるかどうか、是非チャレンジしてみてください(知識がなくても解くことができます)。
(問題) 「年金制度」に関して、次の文は年金制度の二つの方式とその主な特徴を示したものである。これを参考として、年金制度の説明として適切でないものを、下のア~エのうちから一つ選べ。
【積立方式】… | 自己および同世代が納めた年金保険料を積み立て、運用利益を加えて自己および同世代が高齢者となったときの給付に充てる。 |
【賦課(ふか)方式】… | 現時点で中心的に働いている世代が納めている年金保険料を、運用利益を加えながらその時点での高齢者の給付に充てる。 |
ア | 積み立て方式は、自己および同世代の自助努力の意味合いが強く、世代間での不公平感が生まれにくい。 |
イ | 積立方式は、年金保険料を納めた時の積立額の価値と、高齢者となったときの給付額の価値は、必ずしも一致しない。 |
ウ | 賦課方式は、世代間による助け合いの意味合いが強く、社会全体で高齢者の生活を保障しようとしようとするものである。 |
エ | 賦課方式は、その時点での高齢者人口の割合が大きくなるほど、年金保険料を納めている世代の負担が増加する。 |
以前も「高専の社会は解くべし!」で書いたように、高専の社会の問題は資料をもとにその場で考えて答えを出す問題が多く出題されます。この問題もその場で資料を読んで、選択肢を吟味しなければなりません。そもそも、中学生で「積立方式」「賦課方式」という言葉やその特徴を知っている子はめったにいません。もちろん、塾でもそこまで触れることはありません。
この問題の正解はアです。アの説明は適切ではありません。積立方式では、自己が積み立てた保険料を、自己が受けとるため、世代間での不公平感は生まれにくくなります。考えればわかるような問題ですが、考えるのを面倒くさがれば誤った選択肢を選びそうな問題です(特にイのような「必ずしも~ない」という表現を選びそうです)。この問題を見ると、「選択問題は簡単に選べる」「それっぽいのを選べば当たる」とは言えないでしょう。
ではもう一問やってみましょう。2016年の同じく高専の入試問題です。
(問題) 以下の対話文を読み、後の問いに答えよ。
〔太郎〕:最近、ニュースで話題になっていますが、「インフレ」って、物価が上がることなのですね。 〔先生〕:そうだね。市場経済では、一般に景気がよくなるとインフレの傾向が出てくるんだ。好景気で経済活動が活発になると、給与所得が増えることが期待できるんだ。 〔太郎〕:では、インフレになることは、よいことなんですか? 〔先生〕:実は違う側面もあるんだ。インフレになると、お金の価値が相対的に下がるので( ★ )は経済的に損をする可能性が高くなるんだ。 |
対話文中の「お金の価値が相対的に下がる」を参考に、( ★ )に当てはまる事項として、次の①から③までの中から正しいものをすべて選んだものを、下のアからエまでの中から一つ選び、その記号を書け。ただし、インフレによる金利、年金支給額、賃金や報酬の額の変動は考えないものとする。
① 退職金および一定額の年金のみで生活している場合
② 銀行から住宅購入資金を一定の金利で借りている場合
③ 議員のように報酬が一定の場合
ア ①と② イ ①と③ ウ ②と③ エ ①と②と③
インフレになれば、物価が上昇し、貨幣価値が下がるということは当然の知識ですが、このように具体的な事項で考えることには慣れていません。受験生は大きく分けて3タイプに分けることができます。「知識がない」「知識はあるが使えない」「持っている知識を使える」の3つです。この問題は、知識を使える子とそうでない子をはっきりと区分けします。どの場合に物価が上昇すると損をするのかを吟味しなければなりません。①は収入が変わらず物価が上がるから損をする、②は金利が変わらないため返済しやすくなりむしろ得をする、③は収入が一定で物価が上がるので損をする、と考えればイの選択肢にたどり着きます。
記号選択(マーク式)問題であっても、その子の学力や思考の程度を把握することは十分に可能です。模試の採点や日ごろの宿題チェックでも、どの選択肢を選んでいるかで、その子の学力はある程度分かります。もちろん、勘で選んでも正解することができますが、それでも学力のある子は多く正解できて、そうでない子はあまり正解できないのが記号選択問題です。記号選択問題が簡単だという思い込みは早急に捨ててしまいましょう。