英語の授業では、ほとんどすべての英文を読ませて日本語に訳してもらいます。そうすることでただ問題を解くだけでは見えない、その子の単語力、発音、アクセント、訳のセンスをはかることができるからです。ある授業で、“These books are interesting.”を訳してもらいました。私は生徒が間違えそうなところに関しては、生徒が答える前に「今言おうとしている答えで本当に合っているか考えなさい」と言います。間違いの多い子は漏れなく解答を書く(答える)までの思考が非常に浅いです。とりあえず思いついたものを反射的に口に出す傾向があります。それはこれまでも理由や理屈など考えずに、「何となく」や「たぶん」という世界を生きていたのでしょう。もちろん初めて習うこと、難しい問題に関しては間違ってしまうのは仕方ありませんし、あえて生徒が間違うような問題をセレクトして、「深く考えることの重要性」を実感させることもあります。しかし、できて当たり前のものやすでに学習した基本事項に関しては、そう簡単に間違ってはいけません。先の“These books are interesting.”の訳は間違ってはいけないものです。この問題の間違いやすいところはTheseです。Theseなんて基本単語ですので、間違いなどあってはいけないのですが、とりわけ英語初心者は、These,Those,This,That,Theなどが混乱することがあります。本来であれば「これら」と訳さなければならないところを、曖昧なまま「あれら」とか「その」などと答える子が多いのです。人間は一度口に出したものを記憶として強く残してしまう傾向があるようで、間違ったものを口に出すとなかなかそこから脱却することはできません。はじめにSaturdayをサツラディと覚えてしまうと、それをサタディを認識することなく、何の罪悪感なくサツラディと言い続けるのも同じようなものです。そのため、生徒が何も考えずに解答する雰囲気があれば、口に出す前に考えさせることが重要なのです。
英語の訳に関して、先日中3の受動態の授業で、“A lot of stars can be seen in the sky.”という文を扱いました。訳をするときには2通りの訳があります。それは直訳と意訳です。直訳は文に使われている文法、主語などをそのまま日本語に変えることで、英語学習の基本的な訳だといえます。学校の定期テストでも、変に意訳するくらいなら、多少の違和感があっても直訳しておいたほうが無難でしょう。しかし、もし上の一文を直訳したらどうなるでしょう。「たくさんの星は空に見られます。」という、まるで中学生とは思えない幼稚な日本語になってしまいます。そんなときは思い切って意訳をするべきです。「たくさんの星は空に見られます。」を幼稚にしているポイントは、主語を「たくさんの星」にしている点と、頑張って受動態の訳を入れこもうとしている点にあります。受動態は能動態に書き換えることができるので、「見られる」ではなく「見える」にすれば、「たくさんの星」を主語ではなく目的語に置くことができます。これらを総合して意訳すると「空にはたくさん星が見えます。」となり、初めに比べると格段に言いたいことが伝わります。
直訳も意訳もどちらも大切です。直訳しすぎて、あまりにも不自然な日本語であれば意訳をさせますし、意訳しすぎている場合にはあえて直訳に戻すこともあります。英語が苦手な子は、この単語は必ずこういう訳をしないといけない、こういう順番で訳さないといけないという信念のようなものがあります。helpを「助ける」と訳す、atは「~に」と訳す、goodは「よい」と訳すとすべての訳を決めてしまうのではなく、もっといい訳し方はないかと深めていく姿勢が大切です(helpという単語は「手伝う」という意味で覚えなければなりません。日常生活では「助ける」場面より「手伝う」場面のほうが圧倒的に多いです。入試でも同様で、ほとんどが「手伝う」という意味で使われるのです)。