高校受験を終えた受験生の皆さん、お疲れさまでした。中学を卒業すれば義務教育とはさよならとなります。言い換えると、これからは本当の意味での自分自身の人生のスタートとなるわけです。高校に行くのも自由、勉強を頑張るも自由、まじめに働くも自由、結婚するも自由。義務から解放されるということは自由になることを意味します。しかし、忘れてはならないのは、自由には責任が付きまとうということです。何かを選ぶということはそれによって得られるメリットだけでなくデメリットも享受しなければなりません。高校に行かなければ、学歴のメリットは受けられませんし、まじめに働かなければ、お金を得たり、出世して地位を獲得したりといったメリットを得られません。これまで以上に思考・分析・判断を丁寧に行わなければならなくなります。ですから高校に進学するのなら、部活に精を出すのも、恋に溺れるのも構いませんが、勉強することに手を抜かないでください。勉強することで、深く考え、客観的に分析し、納得しうる判断を下せる大人になっていってください。
さて、今回からは数回に分けて福岡県の高校入試問題の分析を行います。大手塾でも発表があるでしょうが、それとはまた違った角度で、個人的な意見も加えながら分析していきます。あくまで個人的な意見ですので、「そういう考えもあるんだな」ぐらいの気持ちでお読みください。
第1回目は国語を見ていきます。まず、今年の入試から試験時間が5分増えたのはご存知でしょう。それに伴い、入試傾向や、大問数が変更になるかもしれないなというのは誰でも予想の付くことです。国語もその予想通り昨年までの大問4題構成から大問5題構成となりました。問題冊子をめくるといきなり「スポーツには世界と未来を変える力がある。」と出てきてびっくりした受験生もいるでしょう。大問を簡単に見ていくと、【大問1:語句と漢字】【大問2:説明的文章の読解】【大問3:文学的文章の読解】【大問4:古文の読解】【大問5:条件付き作文】となっています。それぞれを具体的に見ていきましょう。
【大問1:語句と漢字】
これまで大問1と大問3に組み込まれていた漢字の読み書きがなくなって、漢字語句問題として大問1となったのでしょう。もともと福岡県の漢字問題は簡単でしたし、これだけパソコンやケータイが普及している現代において漢字を書ける必要性はそれほど感じられませんし。漢字を書けることよりも言葉自体の熱量やイメージが分かることのほうが大切ですので、私はこの大問1を好意的に受け取っています。一つ不満があるとすれば、文法問題の出題を増やしてほしいということです。入試に文法問題がわずかしか出ないので、学校でも塾でも扱いがぞんざいになっています。毎年2,3問ぐらい入ってくると、きちんと勉強するようになると思うのですがどうでしょうか。品詞・活用・語の識別を中学時代に意識して勉強しておくと、高校の勉強(特に古典)で有利になると思うのですが。
【大問2:説明的文章の読解】
建築家である宮元健次さんの『日本の美意識』からの出題。そもそもテーマが日本と欧米の文化比較を、「建築・住居」という視点から行うという、既視感たっぷりの題材であったため、「文章でどういうことを言いたいのか」は容易につかめたはずです。それがつかめていなければ、国語の対策を全くやっていなかったということです。今回の国語では「時間が足りなかった」とかいう声が聞こえてきそうですが、文章の題材自体は実にオーソドックスなので、単に事前の準備が足りていなかったのでしょう。日本の住居には内部と外部との隔たりが稀薄で、自然との一体感を感じられるのに対し、欧米は堅固な壁によって自然との距離が生まれるということは、「受験国語を戦う上での常識」です。もしそれを知らなかった、教えてもらわなかったのであれば、自分と周りの大人を責めてください。問二の記述は「どういうことか」問題なので、それぞれの言葉、つまり「優美」「生活」「一体にする」を言い換えてつなげるだけなので難しくはないでしょう。字数制限も幅広いので、様々な表現方法が考えられます。問三のような文章の展開や文章の工夫についての問題が何気に厄介かもしれません。中学生は基本的に、困ったときには「具体的」なものに飛びつくので、選択肢2の「障子や畳などの複数の例を挙げてそれらの特徴を比較しながら」や、選択肢3の「日本の庭作りに関して書かれた古典の作品の一節を引用した」を読んで、これらの選択肢を選んだ人が多いと思われます。以前も述べたのですが、選択問題で誤った選択肢を作るのはとても簡単です。問題作成者は「こんな選択肢にすればきっと中学生は間違うだろう」という計算の下作っています。いずれにしても、一発で答えを選べるタイプの問題はでありませんの、一つひとつの選択肢を吟味して正解を出す必要があります。問一が簡単なので確実にそこで点を取ることが重要です。
【大問3:文学的文章の読解】
原田マハさんの『リーチ先生』からの出題でした。ここ数年、小説からの出題が定着してきましたね。一昨年の安東みきえさんの『針せんぼん』は4年ほど前の作品で、昨年の三浦綾子さんの『千利休とその妻たち』は30年以上前の作品でしたが、今回の『リーチ先生』は1年半ほど前の割と新しい作品でした。原田マハさんの作品としては、『暗幕のゲルニカ』や『本日は、お日柄もよく』などが有名でしょうか。確認してみると、青凜館にも『生きるぼくら』と『ジヴェルニーの食卓』の2冊が置いてありました。自分の読んだことのある文章がそのまま試験に出ることなど稀ですが、読んだことのある作者、見たことのある作者の文章であれば安心感が生まれます。中学生の皆さん、ぜひ本を読んでください。
前置きが長くなりましたが、中身の分析に入ります。問は全部で4つです。問一は後の文脈から適切な感情語を入れるというもので、ほぼほぼ間違うことはないでしょう。問二は自責の念の原因を選ぶというものですが、リーチ先生の振る舞いを読み取れば間違いなく正しい選択肢を選べるはずです。問題作成者もそれほどひっかける気持ちが無いようで、どうぞ正解してくださいと言わんばかりの基本問題です。問三は比喩の説明を選ぶ問題ですが、「比喩とは何ぞや」が分かっていれば間違うことなどありません。「仏のような顔」と言ったときに、その人の顔が本物の石仏になっているなどありえないように、「水鳥のようだ」という表現には、「実際は水鳥ではない」という意味が含まれています。あくまでも水鳥の生き生きした雰囲気を表現しただけです。問一から問三までの記号選択問題は決して落としてはいけないものですね。問四のアは簡単ですね。「期待感や希望」という言葉と本文中の「光が差している」という部分のイメージが近いのですぐに見つけることができます。何よりも十四字という絶対的な条件があれば無敵です。空欄のイに関してはまず「よい作品ができた」という軸を中心として考えていきます。それだけでは字数が足りないのでどうにかして字数を稼がなければなりません。ここが点数の差を分けるところです。そしてここが指導者の力量が問われるところですね。ここでは割愛しますが、青凜館の授業では徹底して指導していくこととなります。
【大問4:古文の読解】
出典は『徒然草』でした。「ある人、弓射ることを習ふに」から始まる超有名な文章があります。受験生であれば問題演習や模試で見たことがあるでしょう。簡単に言うと、「弓矢の素人は二本の矢を持っていると、一本外してももう一本あると思うのに対して、プロはこの一本の矢で仕留めようと思う」という内容です。今回の話はそれとほぼほぼ同じです。日ごろの問題演習を適当にやるなということですね。
問二の(2)で2と4の選択肢で悩んだ人も多いのではないでしょうか。国語を解くためには「対比」する習慣を身につけなければなりません。今回は「プロ」と「素人」の対比であって、「ひとへに自由なる」は「素人」を指しているので、「プロ」とはどんな人かを読み取ればよいのです。選択肢2の「勝手気まま」の反対の意味は「注意深い」、選択肢4の「手を抜きがち」の反対の意味は「全力」といったところでしょうか。ここまで分析すれば、会話文中に「プロの慎重さ」とあるので選択肢2を選ぶことができます。(3)は「具体的な行動」の場面のみを抜き出す問題です。余計な部分を抜き出している人は「具体的」の意味を理解していなかったのでしょう。問三に関しては、会話文中にほとんど答えが書いてあるようなものなので、本当にこんなに簡単でいいのかと思った受験生もいるかもしれません。ただし、「共通している」とありますので、「具体性」を排除して答えなければならないのがポイントですね(この作業を「捨象」といいます。記述回答の基本技能です)。
【大問5:条件作文】
昨年と同じに段落構成で、テーマ自体も汎用性の高いものです(今回は「キャッチフレーズ」でしたが、過去に「ポスター」や「スローガン」などの問題に触れたことがあるでしょう)。自分で「キャッチフレーズ」を決めさせるというのは良い条件ですね。「キャッチフレーズ」自体が点数の対象になるわけではないので、早急に決めてしまって理由づけに時間を残さなければなりません。国語が苦手な子は「キャッチフレーズ」を決めるのに時間をかけすぎてしまうものです。思いつかないときには、身近にあるフレーズを参考にするとよいでしょう。俳句の調べに乗せたり、流行りのギャグやフレーズをパクったり、韻を踏んでみたりすると簡単に作れるのではないでしょうか。また、当然ですが敬体(~です、~ます)に合わせなければなりませんが、この点はすぐに気づいたはずです。
問題の一つひとつを見ていくと、難しい問題があるわけではありませんが、20~30字程度の記述の多さと、微妙な選択肢の吟味により、時間との勝負となったことでしょう。平均点は昨年よりも5点ほど下がりそうです。私としては、ここ数年国語の平均点が他教科に比べ高かったので、健全なバランスに戻ったのかなという印象で、好意的に捉えています。これをきっかけに今まで国語に注力していなかった学習塾が真剣に国語の指導を行えば、中学生の国語力は向上するのではないでしょうか。